あらすじ
若くして身寄りをなくし、生まれ育った富士山が見える町で介護士として働く日奈。日奈の元彼・海斗もまた介護士で、別れたにもかかわらず日奈の身の回りの世話を焼く、ずるずるした関係。
せまい世界で生きていた日奈は、東京からやってきた男・宮澤と触れ合うことで、精神的に、肉体的に、新しい扉を開いていく。
若くして身寄りをなくし、生まれ育った富士山が見える町で介護士として働く日奈。日奈の元彼・海斗もまた介護士で、別れたにもかかわらず日奈の身の回りの世話を焼く、ずるずるした関係。
せまい世界で生きていた日奈は、東京からやってきた男・宮澤と触れ合うことで、精神的に、肉体的に、新しい扉を開いていく。
窪美澄作品に出てくる人物はみんな、残酷なほど正直だ。とても静かなのに、人間の不完全な部分を容赦なく、えぐってくる。
日常にかすかに漂う閉塞感や、華やかさとはほど遠い現実に打ちのめされ、苦しみもがき、それでもしぶとく生きていく。そうしてあとから振り返ってみると、のたうち回ってきた跡が道になっている。人生って案外、そんなもんかもしれない。
2週おきに日奈の家の庭の草を刈りにくる宮澤。いくら刈っても、草はまた生えてくる。冬がきて枯れてしまっても、季節がめぐれば、またもとどおりに茂ってくる。
残された命につきそう介護士という仕事に就く日奈は、生命力に満ちたその手で、枯れた手を支える。
生と死、出会いと別れ、そして再会。
何か自分の中に欠損をかかえている人々が、生きるための居場所を探し求める物語。自分が安心できる場所、自分を必要としてくれる場所、自分がそこにいる意味を求め続けている。
その過程で他人に依存したり、受け入れたり、利用したり、傷つけたり、そんなことをする自分にうんざりしたり、それでも諦められずに同じことを繰り返したり。
生きていくことの醜さと、したたかさ。そのむきだしの感情が見せる一瞬の輝きを、デビュー作からの過激さはそのまま、より繊細に、より艶っぽく描きだす連作短編集。
メンタルが弱っている時に読むと、自分はまだ大丈夫だと安心したり、そっと寄り添ってくれるような優しさがある。けれど、元気な時に読むと、能天気な部分がぶちのめされるような衝撃を受ける。
窪美澄は、そういう不思議なパワーを持った作家だと思う。