自分は今、おそらく美しい顔をしているだろうと思った。

あらすじ

震災で母とはぐれたサナエは、弟と一緒に避難所で生活しながら母を捜していた。マスコミの取材に応じたサナエは、求められるまま苦労や希望を語ることで、精神のバランスを保つようになる。

主人公のサナエは、マスコミを見下しながらも、彼らが望む「けなげな被災者」を演じることで生きる気力をとり戻していく。

実際、取材が入った地域には多くの支援物資が届くようになる。自分たちが生活する避難所に踏みこんでくる取材陣をわずらわしく思いながらも、邪険にすることができず、あるいは追い払うだけのエネルギーもなく、哀れな自分の姿を被写体として提供する。

そうした被災地とマスコミのいびつな関係を、サナエのねじくれまくった心が痛烈に描きだしている。

参考文献の文章と酷似している箇所がある、として話題になったこの作品。

テレビのニュースでとりざたされたり、全文を無料公開したり、間違いなく注目はされているはずなのに、聞こえてくるのは「盗用にあたるのか、法的に問題があるのか」といったところばかり。

作品そのものの評価は完全に置いてけぼりになっている。

私は読んでみて、素直に面白かった。

だがニュースで「盗用かどうかはさておき、いい作品です」とは言わない。作品の感想を入れることで、参考文献の内容をほぼコピペしてしまった著者の甘さを世間に問うというニュースのシナリオが、ぶれてしまうから。

この状況によって、作中で描かれている、自分がほしい情報だけをかき集めるマスコミの不平等さを、皮肉にもマスコミ自身が立証しているように見える。