ベイビー、ベイビー、わたしを離さないで

あらすじ

人里離れた学校で共同生活を送る子どもたちは、保護官と呼ばれる先生たちに厳しく育てられる。大人になった自分をどんな使命が待ち受けているのか、彼らはきちんと教わっている。

使命のため外の世界を閉ざされても、子どもたちは健やかに成長していく。それがどれだけ恵まれていたか知るよしもなく。

この記事を書く時、いつもはあらすじから始める。そうすることで頭の中を整理できるし、設定と結末を書きだすことで、どこを隠すべきかがはっきりするから。でも本作は、あらすじでつまずいた。どこまで書いていいのか分からなかったからだ。

とは言え、ノーベル文学賞受賞直後はどこもこのニュースでもちきりだった。代表作のひとつとして本作を紹介する番組を何度か目にしたし、日本でも綾瀬はるか主演で連続ドラマ化されたりしているので、いまさら隠すだけムダかもしれない。

でも「ネタバレはしない」と掲げた以上は隠す方向でいこう。

物語は、主人公が淡々と過去を振り返る形で進んでいく。小さい頃から常に保護官に管理されているから、時間を自由に使うこともほとんどできない。それでも彼らは芸術を楽しんだり、恋をしたり、ケンカしたり、その年齢相応に育っていく。

その一方で、時がくれば使命を果たさなければいけない。いつくるか分からないけど、その時は確実に迫ってきている。そんな緩やかな緊張感が作品全体に漂っている。

とても奇妙で、ある意味恐ろしい世界の中であっても、最後まで自分らしくあろうとする主人公たちの姿を通じて、人間のたくましさや可能性を描きだしている。

この物語がどういう題材を扱っていて、結末がどうなるか知っているけど未読という方の中には、暗い物語をご想像の方もいるだろう。しかしここだけは、強調しておきたい。
これは、希望の物語だ。

私は幸い、予備知識なしで読むことができた。

わざとらしく設定を説明することなく、時系列さえ時々無視するけど、主人公たちの成長を追っていくにつれ、窓の曇りがとれるみたいに、色々なことがちょっとずつ明らかになっていく。この少しずつ世界が広がっていく感覚も、本作の大きな魅力だと思う。

もし、この記事を読むまで本作のことをまったく知らなかったという方がいたとしたら、それはとても幸運なこと。っていうか、こんなものを読んでいる場合じゃないから。

今すぐに情報が吹き荒れるインターネットから離れ、書店にいきなさい。でも油断は禁物。ポップにあらすじが書いてある可能性もあるから、できるだけ視線は上げないように。文庫の裏に書いてある短いあらすじなら読んでも大丈夫だけど、そこで無闇に想像力をふくらませないように。

できるだけまっさらな第一印象のまま、読み始めてほしい。