どうか信じてください。今がどんなにやるせなくても、明日は今日より素晴らしいのだ、と。

あらすじ

逃走車がエンストしてしまった3人の男は、潰れた雑貨店に隠れて夜明けを待つことに。
突然、店のシャッターの郵便受けから、手紙が落ちてくる。不思議に思いながら読んでみると、それは過去から届いた悩み相談の手紙だった。

悩みを書いた手紙を「ナミヤ雑貨店」のシャッターの郵便受けに入れると、翌朝、店の裏の牛乳箱に店主からの返事が入っている。

だれでも開けられる牛乳箱でプライベートな手紙の受け渡しをするという、人間への絶対的な信頼の上に成り立つこのシステム。これは、そうした人の温かさにあふれた作品だ。

店のシャッターと牛乳箱がタイムマシンになり、時を超えた手紙のやりとりをする。
ナミヤ雑貨店の店主と、潰れた店に忍びこんだ3人と、相談者たち、それぞればらばらの時代を生きる彼らを、手紙がつないでいくファンタジー小説。

相談する時にはすでに答えを決めていて、実はその答えが正しいと確かめたいだけだったりする。そういう意味では、相談というのはとても自分勝手な行為だ。

それを分かった上で、雑貨店の店主は1枚ずつ丁寧に返事を書く。真剣に話を聞いてくれる人がいる、それだけで救われる部分があるから。だから、例えいたずらと分かっていても手を抜かない。

しかしこの店主も、決して人徳の塊のような人間というわけではない。家族に対してはつっけんどんな言い方をすることもある、普通のおじいちゃんだ。

相談者の幸せを願って手紙をしたためる店主。

逃走中だというのに、手紙を読んだらなんだか放っておけなくなってしまい、返事を書き始める3人組。

初めは自分の悩みで頭がいっぱいだったのに、手紙のやりとりをするうちに、大切なだれかのために自分は何を選ぶかという考えに変わっていく相談者たち。

人がだれしも心の中に持っている小さな優しさが、手紙と雑貨店をつないでいく。
今この瞬間に自分がくだした決断や小さな行動が、他の誰かの人生に影響を与えているのかもしれない。

なんて、がらにもなくちょっとロマンチックな気分になるラストだ。