彼にも家族がいて、バックグラウンドがあるのだ。

あらすじ

母を亡くしてから塞ぎこんでいる父を心配する息子。
お隣さんが何者なのか気になって仕方がない妊婦。
妻が選挙に出馬することになった小説家。

家族、家庭にまつわる短編シリーズの3作目。

学生の頃に『家日和』を読んだ。
もちろんおもしろかった。でも刺さるまではいかなかった。

だからなんとなく、家シリーズは素通りしていたんだけど……

それから十年以上が経って今作を読んだら、いやぁ、しみるしみる。

登場人物は全員、ごくごく普通の家庭で生きている。

よそから見ればよくある話かもしれないけど、当人にとっては一生忘れられないできごとを描く。

もちろん、いいことばかりじゃない。
ちょっとヤなやつもいる。

そういうものをあったかいユーモアで包みこんで、クスッ、ホッとさせてくれる。

そして、収録作『手紙に乗せて』の本文にある一節に深くうなづいた。

「おじさんと若者とでは目に映る景色がちがう」

ある事柄について、経験がある人とない人とでは理解や共感に大きな差が生まれる、という文脈で出てきた言葉だ。

『家日和』を読んだ時の私よりも、多少は経験が増えて見える世界が変わったのかな。

そう思えば年をとるのも悪くないかも、なんて思わせてくれる作品だった。