父の人生がなかったことにされたのと同じだ。

あらすじ

交通事故で父が死んだ。

死を受け入れる間もなく、父の車から行方不明の男の子の痕跡が見つかり、父が誘拐したのではないかとと疑いがかけられる。

警察やマスコミから責め立てられた高校生の伊緒(いお)は、父の無罪を証明するため、未だに行方不明の男の子を探し始める。

子どもが知る親の姿は実はとても断片的で、仕事中の姿を見るとびっくりしたりする。

家と学校という狭い世界で生きている年頃にはかなり衝撃的で、一番近いと思っていた人が急に知らない人間になってしまったような錯覚に陥る。

それでも、これまで自分がともに過ごしてきた日々が消えるわけではない。
そう信じ続けた主人公が、知らなかった父の姿を追い求める物語。

絶対に父の無実を証明するんだと意気込んだ伊緒だが、初めはまったくうまくいかない。

探偵ものや冒険ものではよく、子どもってだけで色々な情報を教えてくれる大人がいるけど、現実の大人はそんなに優しくない。

あからさまに迷惑がられたり、辛辣な嫌味を言われたり、悪意を向けられたり。
赤の他人よりも自分の都合や感情を優先する大人の冷たい反応が、ちょっと怖いくらいリアル。

自分の甘さや無力さを思い知らされても、打ちのめされたりしても、伊緒は自分を見失わない。
大人の戦い方を学び、時には人から悪知恵を借りたりしながら、真っ直ぐ突き進む。

そのおかげで暗くなりすぎずに読み進められた。

中盤が厳しかった分、読後感がすっきりしていて、あと味がいい。