誰かを殺したのは間違いない。だけど、母やぼくに危害を加えそうな人には見えなかった。

表紙画像 :とらわれて夏

  • とらわれて夏
  • 著 : ジョイス・メイナード
    訳:山本やよい
  • 出版 : イースト・プレス

あらすじ

13歳のヘンリーは母のアデルとふたり暮らし。

久しぶりの買い出しに出かけたふたりは、血を流した男フランクに声をかけられる。
家に連れて行くと、フランクは刑務所から脱獄してきたことを打ち明ける。

犯罪者と親子の奇妙な共同生活が始まる。

先に映画を見た。

アデルを椅子に拘束したあと、フランクは親子のためにチリビーンズを作る。
スプーンですくってフーフーしてからアデルに食べさせるシーンも印象的だが、それよりも気になったのは、レシピ。

玉ねぎとひき肉と豆を缶詰のトマトで煮る。そこに投入したのが、インスタントコーヒー。
どんな味になるのか、気になって気になって仕方がなかった。

それで原作を読んだのだけれど、調理シーンは原作になかった。
でも調理シーンを撮りたかった気持ちは、わかった気がする。

刑務所から脱走してきたくせに、フランクはとても冷静で紳士的。

正直に話した上で、しばらく家にいさせてほしいと頼む。
お礼に電球をかえたり、配管を修理したり、一緒にキャッチボールしたり。

だから親子もフランクを受け入れ、コーヒーでもてなし、傷を手当する。

とはいえ、家の中に他人の男がいるという緊張感はずっとある。
けれどいつしか、それが恋愛や思春期特有の緊張感へすり替わっている。

フランクが加わったことで、ヘンリーとアデルの閉じた世界が広がっていく。

その予兆や象徴としてたびたび描かれるのが、料理。

自称「今まで食べたことがないほどうまい」チリビーンズ
手でちぎって食べるビスケット
バケツいっぱいの桃で作ったピーチパイ

だれかが作ったものを食べる、一緒に作るという、それほど特別ではない時間が、この3人にとってはかけがえのない瞬間として残る。

欠落をかかえた者同士が寄り添って、疑似家族を作っていく。

けれど、だれにも言うことができない。
絆が深まれば深まるほど、切なさが増していく。