この傷、ほんとに首長竜にかまれたあとなんですかね……

あらすじ

夏休みを離島にある父のアトリエですごす一郎太(いちろうた)は、海で泳いでいる時に首長竜の姿を目にする。友だちには信じてもらえなかったが、調べてみると、かつてその島には竜がいたとされる伝説があった。

首長竜の目撃情報を聞きつけてやってきた研究者とともに、一郎太は首長竜を捜し始める。

私がこの作品を初めて読んだのは小学生の頃。祖母の家から持って帰ってきた、三方背のついた分厚いハードカバー。母が子どもの頃に読んでいた本だ。

2018年1月に著者が亡くなられたというニュースを見て、そういえばあの本はどうしたっけ、と実家の本棚をあさった。だけどどういうわけか、見つからない。どこかにしまいこんでしまったのか、ひょっとしたら、家族が古本屋にでも売ってしまったのかもしれない。

と思ってネットで調べてみれば、アリス社、理論社、講談社から出版されているようで、これだけ再販されるってことはやっぱりいい作品だったんだなと、ちょっと嬉しくなってそのままポチッとご購入。いい時代になったもんだ。

魅力のひとつが、児童文学であることを忘れさせるほどのリアリティー。

首長竜を見たと言う主人公に対する、大人の冷ややかな反応。考古学や古生物学などによって、首長竜の存在がだんだんと輪郭を持っていくストーリー展開。そして、海や首長竜を目の前にした人間の小ささ。

首長竜はなかなか姿を現してくれない。影に気づいて振り返ると、もういない。やっと居場所を突き止めても、痕跡が残っているだけ。

だからこそ、初めて挿絵で首長竜の全身を見た時、そのまがまがしい表情に鳥肌が立った。

首長竜が、人間なんかの手に負えるわけがない。分かっていても、追いかけずにいられない。主人公たちとともに首長竜を追いかけていると、次から次へとページをめくる手が止まらなくなる。

海、恐竜、化石、研究者、追跡と逃走、ロマンとサスペンス、冒険に必要な要素はそろっている。時代に関係なく、読む人を夢中にさせる迫力がある作品だと思う。

あ、でも。

中学生の主人公が一郎太、その友だちが留吉(とめきち)と伝六(でんろく)……って、名前に貫禄がありすぎるところは、やっぱり時代を感じるかな。