子供でも、平気でうそをつく。

あらすじ

放課後の中学校で、生徒が転落死した。その生徒をいじめていたとして、同級生の男子生徒が4人、警察に身柄を拘束される。しかし四人の証言は一致していて、一向に捜査は進展しない。自殺か、事故か、他殺か、それさえも不明のまま、時間ばかりがすぎていく。

初めにあらすじを読んだ時は、少年法への問題を提起する重厚なサスペンスかと思った。確かに少年が死んで、容疑者として同級生が浮上した。しかしこの作品が描いているのは、事件ではない。

事件が起こるまでに、中学生たちに何があったのか。事件が起きたあと、何をして、何をしなかったのか。それが周囲にどんな影響を及ぼしたのか。そんな彼らを、大人たちはどう見ていたのか。

救いや解放があるわけではない。ただ、「沈黙」の背景にあるものを、掘り下げていく。

だから、あの結末で、いいのだ。

逮捕された生徒の親たちは「うちの子に限って」と口をそろえ、我が子を守るために奔走する。刑事たちも、相手が中学生だから、すぐに自白を引きだせると思っていた。しかし何があったのかは一向に明らかにならない。

それもそのはず。

お年頃の中学生が、大人に本当のことを言うわけがない。

親に心配かけたくないから。友達と約束したから。怒られたくないから。かっこ悪いから。理由はさまざま。大人の求める真実と、子どもが知る真相はまったく重ならない。

「親の心、子知らず」とよく言うけど、この小説を表現するのであれば「子の心、親も教師も刑事も知らず」だ。

亡くなった生徒の母、容疑者の母、その夫、親戚、教師、刑事、記者、弁護士、などなどたくさんの人物が登場する。

突然やってきた異常事態に、大人だって動揺する。取り乱したり、他人にひどく当たる人もいる。さまざまな事情や心情があって、その行動にいたっているのだけど、外からじゃ見えない。

これまでにもいくつも群像劇を描いてきた奥田英朗の、まさに集大成。