疼くように、彼女のことを考えていた。

あらすじ

学校生活も、家族との付き合い方も、どこか無気力な高校生・白砂(しらすな)。

父の店で手伝いをしている白砂は、新しく雇った女性・那知(なち)の教育係を任される。

親子ほど年が離れているが同じ趣味を持つ那知に、白砂は急速に惹かれていく。

ランドルト環とは、視力検査に使うCみたいな輪っかのこと。

ぼんやりした視界では、切れ目がつながって完全な環に見える。
それでも十分、生きていくことはできるけど、本当にそれでいいのか?

恋は盲目、なんて言葉があるけれど、この作品は近視同士の恋。

見えちゃいるけど、ちゃんとは見えてない。

白砂が唯一好きなものが、漫画。それも、昭和のギャグ漫画。那知は生まれて初めて出会った、同じ趣味を持つ相手だった。

これまでだれにも理解されなかった趣味を、同じ熱量で語り合える仲間を見つけた喜び。それが恋心に変わる速さ。無気力だった白砂が、生まれて初めての恋に全力でぶち当たっていく姿。

青春と呼ぶにはどこか突き抜けきれないもどかしさがある一方で、この恋を運命なんて言えてしまう青臭さもある。

そんな白砂の心を、近視のぼやけた視界とリンクさせているのが新しい。
近視の人がメガネを外すと、雲の上を歩くような心もとなさや、ふわふわした開放感があり、それを恋心に例えている。

好きで好きで、相手のことはなんでも知りたいと思う。
知れば知るほど好きになる。

でもそれはもしかすると、自分が見たいと思う部分だけしか見ていないのかもしれない。

それに気づくくらいなら、ぼんやりとしか見えない状態の方が幸せだったのでは?

その答えをだした時、かすみがかっていた白砂の心情も、くっきりと澄み渡っていく。