そもそもこの女が何者なのかもわかっていない

あらすじ

アレックスは見知らぬ男に誘拐される。誘拐犯は「おまえがくたばるのを見たいからだ」と、彼女を檻に閉じこめる。

捜査官のカミーユは誘拐の捜査を開始していた。だが手がかりはなく、誘拐の目的も、誘拐されたのがだれなのかさえ掴めないまま時間だけがすぎていく。

この物語は、大きく分けて2つの段階に分けられる。

アレックスが監禁され、カミーユたち警察が彼女を探す前半と、アレックスが誘拐された理由が明らかになる後半。

前半、後半、そして結末、それぞれのタイミングで、まったく物語の見え方が変わってしまう。

初めは、カミーユが主人公なのかと思った。アレックスを探し出し、犯人を捕まえるのかと。アレックスも、最初はただただおびえ、だれかが助けてくれるのを待っていた。

だが、自分が誘拐された理由に気づいた途端、アレックスは冷静に状況に対処し始める。

たくましいを通り越して不穏なほどの変貌ぶりで、彼女はただの非力な被害者から、謎に包まれた主人公へと昇格する。

助けてくれるはずだったカミーユさえも振り切り、アレックスは次々に不可解な行動を起こしていく。何が彼女を突き動かしているのか、その背景にあるものを知りたくて、ぐいぐい読み進めてしまう。

ようやくカミーユがアレックスにたどりついた時、投げ出されるような唐突な結末がやってくる。

その衝撃とやるせなさを味わったあと、本を閉じてタイトルを見ると、やっぱり主人公はアレックスだ、と深くうなずいてしまう。