「少なくとも、オレたち、助け合えるんじゃないかって」

あらすじ

学校にいけず、家に閉じこもっている中学生の女の子、こころ。

ある日突然、自室の姿見が光を放つ。鏡をくぐった先はおとぎ話に出てくるような城の中で、こころの他に6人の中学生が集められていた。この6人もまた、さまざまな事情から学校に通えていない。

7人は城のどこかに隠された、願いを叶えることができる鍵を探すことになる。

鍵探しの期限は10ヶ月後、来年の3月30日まで。その間、城への出入りは自由だが、夕方5時には必ず帰らなければならない。

「辻村深月は初めて読んだ作品が暗くて2冊目に手が出なかった」という声をたまに耳にする。

まあ、言わんとすることは、分かる。

辻村さんの作品は、どんなに途中の道のりが暗くても、最後には必ず光が射す。しかしその光が、トンネルを抜け出た体に降り注ぐ陽光なのか、遠くに見える小さな点なのか、作品によってかなり差があるのだ。

きっと冒頭のようなことを私に語った人々は、最後に射してきた光よりも、読むために消費したエネルギーの方が勝ってしまったのだろう。

そんな、かつて辻村作品に挫折した経験のある人にこそ、この作品を読んでもらいたい。
結末には、物語の途中に漂う息苦しさを全部かき消して余りあるほどの、温かい読後感に包まれる。

鏡、城、鍵、とファンタジーの定番アイテムがそろっているが、物語の主軸は中学生たちが生きている現実の世界だ。

「学校にいく」という当たり前のことができず、じっと部屋で息をひそめていたこころは、城で6人に出会うことで久しぶりに自分の居場所を見つけることができる。

鍵探しそっちのけで、ゲームしたり、お菓子を持ちこんでおしゃべりしたりするうちに、最初は避けていた学校の話題も、少しずつ触れられるようになっていく。

やがて彼らは協力して城の外の現実に立ち向かおうとする。そのあたりから、もう、ページをめくる手が止まらなかった。

中学生という年頃は、これといったトラブルがなかったとしても楽じゃない。
親とケンカしたり、学校での人間関係を気にしたり、おしゃれに恋に受験に、色々と忙しい。

同時にいくつもの感情が湧いてきて頭の中がぐちゃぐちゃになったり、自分の正直な気持ちに気づかないふりをしたり、他の考えに押し流されて心の叫びを聞き逃してしまったりもする。

そうした中学生の不安定な胸の中を、一瞬たりとも逃さず、繊細な筆さばきでつづられている。

中学生だった頃の自分に読ませてみたい、と思った。でも大人になったからこそ、はっとさせられる部分が多いかもしれない、とも思う。

あの頃は分からなかった感情の正体が、この本の中で見つけられたような気がした。