いざや、傾かん。

あらすじ

舞台は安土桃山時代。生まれも境遇もばらばらの4人が音楽に魅せられ、音楽と踊りのパフォーマンス集団を結成する。

庶民から絶大な人気を得た4人だが、芸事を嫌う武士の圧力や時代の荒波が立ちはだかる。

傾き者(かぶきもの)と呼ばれる者たちがいた。派手な着物を着崩したり、奇抜な髪型をしたり、刀やロザリオをオシャレ目的で身につけたり、時には商店を襲うなどの蛮行を働いたり、それまでの常識に従わない者たちのこと。

現代の言葉で言うなら「ヤンキー」とか、はやりについていけない世代が口にする「イマドキの若者」みたいなものだろうか。

この物語は、4人の傾き者が音楽に魅了されたところから始まる。

主人公は、踊りと食べ物のことしか考えていないけど天才的なセンスと身体能力を持つダンサー、幼い頃からスリなどで生活してきた三味線弾き、笛を作ることより演奏に目覚めてしまった笛職人の跡取り息子、流れ着いた日本で故郷の楽器と再会したモザンビーク出身の太鼓奏者の4人の傾き者。

音楽や踊りは高貴な方々の前でお見せする、厳粛で、固苦しいもの。そうした風習にしばられない彼らは、それまでの芸能の概念を痛快にぶち壊していく。

他人のステージに勝手に飛び入りするという手荒な手段で演奏場所と知名度をもぎとり、殿様に気に入られてお抱えバンドになったかと思えば、俺たちがやりたいのはこんなことじゃねえ! と飛びだしちゃったり、ライバルバンドが現れたり、メンバーと仲違いしたり。

バンドものと青春ものの定番はしっかりおさえつつ、時代劇らしい活劇もありと、なんとも盛りだくさん。

そして今作の魅力は、なんといっても演奏シーン。

座して弾くのが当たり前だった三味線を立ったまま肩にさげて弾き、異国の太鼓がつむぎだすビートに載せ気が狂ったように踊り、極彩色の舞台をさらに笛が彩る。

ステージに立つ4人の興奮や、未知のパフォーマンスを目の当たりにした観客たちの熱気があふれだしてくる演奏シーンは鳥肌モノ。

4人が出会ってつむぎだす音、自分たちがやりたいことを貫き通す信念が、作品全体をどっしりと支えている。

史実に基づいた人物や事件も出てくるが、当の主人公たちは時代の大きな流れなど、どこ吹く風という性格。そのおかげで、歴史はテストが終わると同時にきれいさっぱり忘れてしまうタイプの私でも、抵抗なく入りこんでいくことができた。

はちゃめちゃな4人のロックンロールが実は歴史や伝統に影響を与えていた、かもしれない。
そんなロマンを感じるバンド時代小説。