護られた者たちとそうでなかった者たちの境界線はいったいどこにあったのだろうか

あらすじ

福祉保健事務所の職員が拘束され放置された末、餓死する殺人事件が発生。その殺害方法から強い恨みがあると推測、被害者の職業から、生活保護の申請を却下された者による報復ではないかと捜査が動き始まる。

遠慮深いことが美徳とされていた時代は遥か昔。大きな声で自分の権利を主張する者が得をし、他人様に迷惑をかけてはいけないと真面目に生きる人が損をすることもしばしば。

権利の行使は悪いことではない。ただ、必要な人に行き渡らないという現実があるということから、目をそらしてはいけない。

巧妙な手口で不正受給を続ける者がたびたびニュースになる。そういう不届き者がいるせいで、申請はどんどん厳しく複雑になり、本当に生活保護を必要としている人をはばむ障害となってしまう。

おまけに国からは保護費を減らされる。正しい判断をしようと厳しく審査をすれば、受給者に恨まれる。保険事務所の職員は板挟み。強い志を持っていた職員ほど、やりがいを見失い、疲弊してしまう。

その日の食事にも困窮し、それでも世間体や遠慮やプライドが邪魔をして、なかなか生活保護を申請できない人がいる。やっとのことでそれを乗り越えて助けを求めたにもかかわらず、申請を却下されてしまったら、いったいその人はどうすればいいのか。

社会保障制度の限界に真正面から切りこんだ作品。

生々しい現場の描写が物語のリアリティを深めているのだが、驚いたことに、著者は一切取材をせず、すべて想像で書いたそうだ。

現場で話を聞けば、取材に応じてくれた人のことを悪く書きずらくなる。すべての人を公平に書きたかった。ということらしい。

確かに、事件の犯人は存在する。けれど、この事件を引き起こした原因はだれにあるのか。

読み終わったあとも、しばらくその余韻が残る。