俺はいつだって演じている。何かを。

  • 舞台
  • 著 : 西加奈子
  • 出版 : 講談社

あらすじ

初めてニューヨークに旅行した29歳の葉太(ようた)。

初日に荷物を盗まれてしまい、いきなりピンチに。

ところが色々こじらせている葉太は、助けを求めることはせず、しばらく普通の観光客としてすごすことに。

だれも知っている人がいない旅先では、ちょっとだけ大胆になれたりする。

その土地のルールや習慣を知らずに恥かいても「初めてだから許して」と開き直れると、精神的にはかなり軽傷で済む。

でもこの主人公、葉太にはそれがまったく通用しない。

こんなに自意識過剰な主人公は、なかなかいない。

自分の姿が、他人にはどう見えているのかを常に意識している。

ガイドブックを現地で開かずに済むよう、内容を丸暗記。
撮影スポットでカメラを取り出すことはしない。
すべては、観光客がはしゃいでいると思われるのが嫌だから。

分かる、気がする。ほんのちょっとだけ。

ただ葉太はそれだけでなく、他のはしゃいでいる人を見下してしまうのがイタイところ。
しかも、調子に乗らないように自制しているくせに、わりとしょっちゅう浮かれ気分がもれ出ちゃう、残念な男。

自尊心とか虚栄心とかで身動きとれなくなった葉太が転げ落ちていくのが、だんだんおかしくなっていく。

なんだか、昔の自分を笑うみたいな、そういう感覚に似ているのかも。
笑い飛ばさないととても見ていられない、みたいな。
だからこそ、とても惹きつけられる。

そうしたイタさを突き抜けた先には、悪いものを全部出しきって体が軽くなるみたいな清々しさが待っている。