見えざる手に導かれていると感じたとき、人はそれを宿命と呼ぶのさ

あらすじ

人間よりも優れた能力を持つ獣「人外」と戦い続けてきた人類。
そんな中、第五系人帝国は人外を使役することで繁栄を遂げてきた。

皇帝の末娘・アルスルは父の暗殺容疑をかけられてしまう。

裁きのために城塞都市に連れて行かれたアルスルは、そこで鍵の城の城主・リサシーブと出会う。

とにかく、人外が怖い。
中でも「人外王」と呼ばれるやつらは災害級の力を持っていて、こんなのどうやって倒せと? と絶望する。

一方、主人公達に仕えるイヌ系人外は献身的で無邪気で、しゃべるたびに癒やされる。

人間の敵にも味方にもなりうる存在をめぐる、ダークファンタジー。

序盤のアルスルは、かわいそうで見ていられない。

みんなと同じようにできず、周囲からつけられたあだ名が「レディ・がっかり」。
両親から愛されたいという願いすら叶わず、自分には価値がないと思いこんでいる。

そんなアルスルが、友達を得たことで変わり始める。

友達を守るために脅威に立ち向かううち、自分自身もちょっとずつ大事にできるようになっていく。

殺伐とした世界観だからこそ、根源的な他者とのつながりによって成長していくアルスルの姿が、とてもまぶしく見えた。

もしかしたら成長というより、持っていた素質を発揮できるようになったと言った方が正確かもしれない。

人外すら包みこんでしまう、アルスルの静かで深い優しさが、生々しくて残酷な世界をすべて浄化してくれる。

清々しい読後感だった。