いっぺん間違ったことを正解にすることはできると思う?

  • 空の中
  • 著 : 有川浩
  • 出版 : 角川書店

あらすじ

高度2万メートルで立て続けに航空機の爆発事故が発生する。
原因究明のために派遣された技術者の春名(はるな)と、事故の目撃者である自衛隊のパイロット・武田(たけだ)は、事故のあった空域へ調査に行く。
そこでふたりは、人類を遥かに凌ぐ知能と技術を持つ不思議な生命体に出会う。

その事故で死亡した自衛官の息子・瞬(しゅん)は、川で不思議な生き物を拾い、家に連れて帰る。

前半、映画『メッセージ』(原作はテッド・チャン『あなたの人生の物語』)に既視感を覚えた。
(ある日突然、世界のあちこちに宇宙船が出現。地球に来た目的を知るため、言語学者の主人公がエイリアンと対話を試みる物語)

あの映画みたいな、人間を捕食や侵略の対象として見ない未知の生命体との接触や、時間をかけて互いを理解しようとする物語が好きな人は、きっと刺さるはず。

『メッセージ』が主人公の視界が外へ広がっていく物語なら、今作はキャラクターの内面へ潜っていく物語。
普通の高校生が中心にいることで、突拍子もない物語が身近な出来事として説得力を持って胸を打ってくる。

白っぽい巨体から【白鯨】と呼び名がついたその生命体は、とても温厚で、基本的に人類に友好的。

でも謎の巨大生物の出現に、日本だけじゃなく世界中が大パニック。
駆除しろ、保護しろ、そんな訳分かんないものを国外に出すな、どこかの国の兵器に違いない! ……と人類の足並みはバラバラ。

主人公達は【白鯨】から“人類に危害を加えない”という確約を得ようとする。
ただ一応会話はできるものの、人類の考え方や社会構造を理解しているわけではないので、話は一向に噛み合わない。

いつからここにいる? に対する答えが「ここに来ようと望んだときから」みたいなトンチンカンな会話に人類の存亡がかかっている。
そのアンバランスがおかしくて、小難しい話をしているはずがすらすら読める。

大人組が【白鯨】と交渉しつつ、政治的な駆け引きを繰り広げる一方、瞬は自分の感情と戦い続ける。

自分の行動が正しいのか悩みながらも足を止めることができない危うい青さなんかもう、見てられない。
でもその精神的な揺らぎが後半の物語を大きく左右していくから、目が離せない。

大人組と高校生組、剛と柔の話が並行して進んでいく、ひとひねり効いたSFエンターテインメント。