殺戮者の私にとっては、追い風だった。

表紙画像 :魔笛

  • 魔笛
  • 著 : 野沢尚
  • 出版 : 講談社

あらすじ

カルト教団に潜入捜査をしていた公安捜査官の礼子(れいこ)は、いつしか教団にとりこまれ、爆破テロの実行犯となる。

あえて現場に自分の痕跡を残し、自分を理解してくれる好敵手が現れるのを待つ礼子。

そうとは知らず、刑事の鳴尾(なるお)は爆弾の残骸から見つけた手がかりを追って独自に捜査を始める。

残虐な手口と、優れた知識と行動力で爆破を繰り返す礼子。

自分を理解してくれる相手とともに破滅したいという、かなりあぶない願望の持ち主だけど、行動は常に冷静で、その力は底が知れない。

そんなアンバランスなのにタフな礼子の精神に、問答無用で物語に引っ張りこまれてしまう。

テロを起こし死刑判決を待つ礼子が、獄中で自分のしたことを小説にしたためるというスタンスで物語が進む。

実行犯なので、捜査中の刑事たちが知り得ない詳細を知っている。
加えて、小説を書くために関係者に調査をしたので、本人が知らないはずの当時の刑事たちの行動までも知っている。

そのせいで、すべての登場人物の行動が礼子の手の平の上で転がされているような感じがする。そんな不気味な空気が作中全体に漂っている。

このあと何が起きるのか知らない鳴尾に、礼子の手がじわじわと迫る絶え間ない緊張感がたまらない。

特に後半、礼子と鳴尾が対面してからは息をつくひまもない。

一気読み必至のハードボイルドミステリー。