俺は、こんな曲を作りたかったんだ。

あらすじ

AIがユーザーの好みの曲を瞬時に作曲できるようになり、ほとんどの作曲家は仕事を失った。

ある時、第一線で活躍する数少ない作曲家の名塚(なづか)が自殺する。

その直後、名塚のかつてバンド仲間で元作曲家の岡部のもとに、名塚の未完成の曲が送られてくる。

生活が便利になった代わり、多くの夢と仕事が奪われた。それも、いち企業の、いちサービスで。

状況の受け止め方はそれぞれだけど、音楽に関わる者たちは一様に、閉塞感をかかえて生きている。

しかし、夢や仕事が消えても、音楽を好きという気持ちは消えない。
それが希望になるのか、さらなる苦しみを生むのか、それもまた人それぞれ。

なぜ名塚が曲を送ってきたのか。本当に名塚の意思なのか。
謎は山程あって、先の展開がまったく予想できない。

かつてAIに自信をへし折られ作曲の道を諦めた岡部は、感情も生活も起伏に乏しい機械のような人間になっていた。

名塚の意思を知ろうと調査を続けるうち、岡部はAIを開発した企業の闇に踏みこんでいく。

その中で岡部は、音楽に夢を抱いていた頃の気持ちを徐々に取り戻していく。

名塚の自殺以降、物語に大きな事件は起きないが、だからこそ、岡部の静かな覚醒をじっくりと感じることができる。

そして、彼をそこへ導いた名塚の意思が明らかになった時、ぐっと胸が熱くなった。

1冊でSF・音楽・友情を堪能できて、あと味もすっきりした作品。