水は薄くなるけど、思い出は薄くなりませんよ

あらすじ

クグノタカラバコ、それはクグが集めたガラクタを展示した博物館。
クグに「これは何?」と聞けば、それに出会った不思議な冒険のお話を聞かせてくれる。

聞き終わるころには、ガラクタは宝物に変わっているはず。

子どものころ、ユニコーンの角を拾った。
どう考えても樹脂製だったけど、形がまさに、折れた角だったのだ。

見つけたときは友達と大盛りあがり。
手のひらサイズの角ってことは本体の大きさは……などと想像がふくらんだ。

当時の私の机の引き出しは、そうやって拾い集めたガラクタでいっぱいだった。
けれど、拾ったときのことを覚えているのは、あの角だけだ。

旅好きで迷いぐせのあるクグは、行く先々で不思議なモノや人に遭遇する。

カガリビワニ
サンドイッチ・キング
モジクイムシ
メモリー・フィッシング

……ナニソレ?
と首を傾げれば、もうクグのお話のとりこ。

クグはモノを大切にしているけど、執着はしていない。

クグが訪れた川の水が入っている水鉄砲を紹介したときのこと。
撃てば当然、水が減る。それに対してクグは言う。

「いいんですよ。あとで水道の水を入れときます」
「水は薄くなるけど、思い出は薄くなりませんよ」

クグにとってモノは、だれかと思い出を分かち合うための目次みたいなものなのかもしれない。

仮にモノがなくなっても、そこで出会った人やできごとの記憶が消えることはない。

だからそれがひっくり返ってしまう瞬間は、胸がぎゅっとなるくらい切なかった。

ちょっと不思議で、かわいげがあって、寂しさも喜びもある短編集。