胸の疼きに耐えながら線香花火を点す

あらすじ

幼馴染のユウナが死んだ。

喪失感を引きずってすごしていた高校生の大地は、あるときユウナが好きだった線香花火に火をつける。

花火が消えると大地の前にユウナが現れた。宙に浮いた状態で。

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著者は今作で、線香花火を「火花の爆ぜる音は、傘に降り注ぐ雨音のようだ」と表現している。

楽しい記憶につながる花火、けれど使えば使うほど残りが減っていく。
悲しい記憶につながる水、けれどユウナが現れるときには水の音がする。

火と水という相反する要素が、相反する感情とともに象徴的に組み合わされ、作品全体を優しい切なさが包みこんでいる。

ユウナが好きだった線香花火に火をつけたあと、少しの間だけ、ユウナと会うことができる。
ユウナの姿が見えるのは大地だけ。

もう二度と会えないと思っていた彼女とまた一緒の時間をすごせて、大地は生きる気力を取り戻す。

ユウナへの気持ちを伝えられないままだった大地にとっては、またとないチャンス。

けれど、ふたりっきりの時間の心地よさに、ついつい決断は先送りになってしまう。

永遠には続かないとわかっているのに。
ユウナに会うたびに線香花火は減っていくのに。

喜びも切なさもひとりでかかえるしかない大地の葛藤と成長に胸が締め付けられる。

けれど結末は乙一作品らしいすっきりした後味。

夏と青春、終わりのあるからこそ輝く一瞬一瞬を散りばめた作品。