おいしいものが好きじゃない人なんているだろうか

あらすじ

自分で作ったもの、だれかに食べさせてもらったもの、出先で出会ったもの、苦手だったものなど。
雑誌掲載していた、食べものや料理にまつわるエッセイをまとめたもの。

巻末には短編『ウミガメのスープ』も収録。

不思議なもので、食べものの味そのものは思い出せなくても、どこでだれと食べたのかはわりと覚えていたりする。

食を中心に、家族との懐かしい会話や、新しい土地で出会った人などを、1話ごとに自然体でぬくもりある目線で描く。

なんでもない日常の幸せを詰めこんだ一冊。

とにかく文章が美しい。
休日の朝のように穏やかで、素朴で、リズミカルで、読んでいて気持ちがいい。

食べものそのものの描写は、実はそんなに多くない。
ただ、それを前にした人の反応や、そこに至るまでの経緯を読むことで、とてもおいしそうに見えるし、それを囲む空気の暖かさを感じる。

私が特に好きなのは『虎のバター』。

料理上手のお兄ちゃんと妹が『ぐりとぐら』に出てくる、フライパンで焼いたふわふわのカステラを再現。
それに触発された次男が『ちびくろさんぼ』を真似てバターだけでホットケーキを作ろうとした、というかわいい話。

おいしいものを食べたら元気が出るように、1話読むごとに、少しずつ幸せが染みこんでくる。