父ちゃんがどんなふうに笑ったのか、おれにはわからない。

あらすじ

父は、海で溺れて死んだ。
小学6年生のヒロキは、父のことをほとんど何も知らない。

おじさんの家で偶然見つけた写真から、父が死んだ海の名前を知ったヒロキは、夏休みにひとりでその海を見に行くことにする。

冒険には、夏が合う。

通ったことのない道に入ってみたり、初めてひとりで電車やバスに乗ってみたり、子どもの頃はそんなちょっとしたことが大冒険。
そういう時の記憶は、意外なほどくっきりと残っていたりする。

ヒロキの記憶にも一生残るであろう、1日だけの夏の冒険のお話。

母子家庭のヒロキは、母に迷惑かけまいと、変なとこで大人びてる感じがある。

母やおじさん達の表情から、父の話題に触れてはいけないのだと察し、本当は知りたいことがたくさんあるのに我慢している。

ただ基本的には、今日の晩ご飯はなんだろう? が悩みの最前列に来ちゃう普通の小学生。

突然現れた手がかりに好奇心がふくらんだり、出発を前にワクワクと同じくらい不安があったり、等身大のヒロキの心の動きが、繊細に描かれている。

印象的だったのが、ヒロキの周りにいる人達が、みんなとってもいい人だったこと。
背中を押してくれた、冴えてる同級生とか。
ひとりで海を目指すヒロキをそっと見守ってくれたり、詳しい事情は聞かずにおいしいご飯を食べさせてくれる大人とか。

この人達がいるから、ヒロキは普通でいられるんだろうな。

冒険には、帰る場所がセットじゃなきゃ。