いろんなことがあったけど、会えてよかったよ

あらすじ

理不尽なスパルタ練習が当たり前だった母校の野球部に息子が入部した。
現在の野球部はただ楽しく野球がしたいだけのゆるい部活になっていた。

たまたま地元に帰ってきていた同期の元キャプテンが臨時監督をやることになるが、勝ちへのこだわりすらない今の部員たちの温度差に戸惑う。

時代の移り変わりを描いた5作からなる短編集。

親を老人ホームに入れるために久しぶりに帰郷したり。
先輩から受けたスパルタを平然と後輩に継承していた世代が、今ではパワハラにならないかおびえながら慎重に部活を見守る立場になっていたり。

若い頃のように俊敏に動けないし、責任もしがらみも増えて、人生が窮屈になったと感じることもある。

そんな人たちが友や家族との「再会」を通して、過去と現在を描き出す。

かつては賑わっていた場所、輝いていたもの、人が、時を経て、朽ちたり消えたりしていく。

親の介護、さびれていく商店街など、色々なものに向き合わなきゃいけなかったり、変わってしまう切なさはある。

けれど決して暗くはならず、結末に光があふれているのはさすが重松清という感じで安心して読める。

印象的だったのは「どしゃぶり」という作品のラスト、野球部のOBたちが、どしゃぶりの雨の中で野球(?)をするシーン。

実際には、運動不足のおじさんがもたもた走ったり転んだりしているだけのはずなのに、ほとばしる青春感。まぶしいくらいの透明感と開放感が気持ちよかった。

「昔はよかった」なんて言いつつも「今だってそんなに悪くないけどね」と現在を肯定して、ノスタルジーを前進する力に変えていく物語。