私も、あの夏、あそこにいた。

あらすじ

カルト団体「ミライの学校」の敷地跡で少女の白骨遺体が発見される。

かつてミライの学校に行ったことがある法子(のりこ)は、報道を見て動揺する。

もしかしたら、それはミライの学校で仲良くなったあの子なのではないかと。

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考える力を身につけた子どもが未来を作る。
それがミライの学校の方針。

「先生」と呼ばれる大人たちはキラキラした目で理想を語り、子どもたちを自立したひとりの人間として扱う。

純真無垢なその情熱がはらむ無責任から、目を背けて。

ミライの学校ですごした子ども時代と、30年後の現代、ふたつのパートで物語が進む。

ミライの学校は、その方針に賛同する人々と、その子どもが共同生活している施設。
法子は小学生のころ、夏休みの間にそこで1週間をすごした。

普段は都市部で普通の学校に通っている法子には、自然に触れることも、自立心を尊重する教育方針も、とても新鮮に映る。

しかしその思想のもとに運営される学校はどこかいびつで、でも決してそこを指摘してはいけない不穏な空気が漂っている。

成長し弁護士となった法子は、仕事でミライの学校の事務所を尋ねる。

学校での楽しかった思い出は否定したくない。
しかし、自身も親になった法子の目には、学校の運営に嫌悪感を禁じ得ない。

子どもたちが大人の夢に都合よく使われていることへの怒り。
自分もそのひとりになる可能性があったことへの恐怖。
自分たちが見たい理想しか見ない、頭でっかちな大人への絶望。

あのころには言葉にできなかった違和感がはっきりとした形を持ち、身元不明の白骨死体をめぐるミステリーをひも解く鍵となっていく。

子ども時代の夏の輝きと、未熟さゆえの苦い後悔を描いた長編。