あらすじ
ある人と久しぶりに再会するところから始まる、4作の短編集。
かつて、心のどこかでバカにしていた人、苦手だった人、信頼されていると思っていた人、眼中になかった人。その人たちの目に、自分はどんな風に映っていたのか。時間が経った今、それを突きつけられる。
ある人と久しぶりに再会するところから始まる、4作の短編集。
かつて、心のどこかでバカにしていた人、苦手だった人、信頼されていると思っていた人、眼中になかった人。その人たちの目に、自分はどんな風に映っていたのか。時間が経った今、それを突きつけられる。
『かがみの孤城』では、分かり合えない人間と無理に関わる必要はないという逃げ道を提示した。
この作品では、分かり合えない人間と真っ向から戦う。
面白いのは「戦う」なのか「理不尽なめにあっている」なのか、どちらに見えるかによって、この作品の感想はまったく違うものになるところ。
短編はすべて、過去のわだかまりを引きずった者同士の対立が描かれている。彼らの関係は、思いこみや、価値観の違いや、かつてのヒエラルキーなどが積み重なって、時間なんかじゃとても解決できないところまでこじれている。
本当は短編の中身についても詳しく書きたいけれど、出会い頭にアッパーカットをくらうようなあの衝撃をぜひ味わってほしいので、詳細ははぶく。
相手は主人公に対して、あの頃は言語化できなかった感情や熟成された敵意をぶつけてくる。そこまで言わせるほど相手を深く傷つけていたことに、主人公はこの時初めて気づくのだ。
しかし、過ちに気づいたとしても、悔い改めるかどうかはまた別の話。タイトルにある通り、彼らの価値観は決して「噛み合わない」のだ。
現実にも、どれほど時間をかけて、言葉を尽くして、腹の中をさらけだしても、どういうわけか馬が合わない人はいる。そんな人といくら会話したって時間の無駄でしかない。
そうと分かっていても、彼らは戦う必要があった。
冒頭に書いた「戦う」か「理不尽なめにあっている」か、私には「戦う」に見えた。しかし同時に、牙を向けられ冷や汗が止まらない主人公の恐怖も感じるという、とても不思議な体験をした。
主人公と、主人公に立ち向かう相手。本当の主役はいったいどちらなのか。それは読む人や、読むタイミングによって違うはず。