あなたの想いとともに、お預かりいたしましょう。

あらすじ

父が再婚したことで、家の中から徐々に、亡くなった母の痕跡が消え始めた。
このままでは母が作ってくれたウサギのぬいぐるみも義母に捨てられてしまうと焦ったリリのもとに「十年屋」から一通のカードが届く。

事情があって手元には置いておけないけど、捨てることもできない大切なものがある人達と、そんなものを預かってくれる魔法使いの短編集。

もの自体の価値よりも、そのものに宿る大切な人との思い出やつながりの方が、実は重要だったりする。

主人公達は品物を預けることで、囚われていた悩みや苦しみから解放される。
そして、預けなければならない状況を生んだ理由に立ち向かう一歩が踏み出せるようになる。

ものを通して、人とのつながりを修復したり、強めたりするお話。

大切なものを10年間預かってもらうかわりに、1年分の寿命を支払う。
しかも、お話の中で十年屋を訪れる者は、ほとんどが子ども。
児童書だと思って気楽に読んでたら、ちょっとドキッとした。

この物語の魔法は、奇跡みたいなキラキラしたものではなく、相応の対価が伴う“契約”として描かれる。

でも子ども達は、そのリスクも理解した上で、自分で決断する。
加えて、その魔法を扱う十年屋本人や店の雰囲気はほんわかしていて、作品全体を通して、怖さよりも温かさがまさっている。

文章の力も大きい。

十年屋から届いたカードを開くと、
「とたん、ふわっと、淹れたてのコーヒーのようなこうばしい香りがあふれた。それとともに、金茶色の光がつるばらのようにカードからのびてきた。光はゆるやかにリリに巻きつき、包みこむ。」
なにそれ、ステキ。

契約はシビアだけど、魔法がもたらす効果は優しくて、色鮮やかな情景や、香り、柔らかい手触りを、少ない文章量で読み手にすっと伝えてくれる。

読書の楽しさを味わえる、読書初心者にこそおすすめの一冊。