本艦所有ミサイルの弾頭は通常に非ず

あらすじ

イージス艦《いそかぜ》が、太平洋上で某国工作員に奪われた。

日本政府が要求を飲まない場合、生物化学兵器を搭載したミサイルが東京に撃ちこまれる。

《いそかぜ》クルーの仙石(せんごく)は、艦と部下を守るために奮闘する。

護衛艦で『ダイ・ハード』をやりたかった。

作者がそう言う通り、船という閉ざされた空間でテロリストと戦うお話。

そこにおじさんミーツ青年のドラマを織りこんだ、海洋冒険小説。

タイトルからわかる通り、自衛隊がかかえる矛盾や戦後日本の盛衰など、ストーリーのバックグラウンドはかなり広大。
テロリストも、それを阻止しようとする組織も、過激な思想信条をぶつけ合う。

けれど主人公の仙石だけは
“死んだらおしまい”
という、極めてシンプルな動機で動き続ける。

仙石が浮き輪になってくれるから、イデオロギーの荒波に溺れることなく読み進められた。

とはいえ、腹周りの肉が気になる中年自衛官が、特殊訓練を受けたテロリストに敵うはずがない。
そんな圧倒的に不利な状況を、艦の知識と機転と根性でひっくり返そうとする展開は、純粋にエンタメとしておもしろい。

凡人が頑張って戦う系のお話って、なんでこんなに楽しいんだろう。

さらに横軸として、仙石と若い部下・行(こう)との関係性が描かれる。

戦闘力は高いがコミュ力は皆無の(ふりをしている)行と、そんな行を導いたり振り回されたりする仙石は、いいバディーになれそうなのにあと一歩の距離がなかなか縮まらない。

そんなふたりの関係性や行の心の変化とともにストーリーも大きくうねっていくから、特に後半はページをめくる手が止まらない。

25年前に発表された本作だが、そこで語られる問題は現在でも解決していない。
解決策なんか思いつかないし、ひとりの力はたかが知れている。現実はそう簡単に変わらない。

けれど、理想を語ることを忘れてはいけない。諦めてはいけない。

暑苦しい、ともすると青臭い仙石の言葉には、そんな力がある。

そのリアリティーと割り切りのバランスが、すごく刺さった。