自衛官も人間なんです。

あらすじ

ケガでパイロットを引退し、広報室に転属した航空自衛官の空井は、密着取材のために来庁したテレビ局のディレクター稲葉の担当を任される。

空井は、自衛隊に関する知識も興味もない稲葉に、自分たちのことを知ってもらおうと奮闘する。

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災害派遣で炊き出しをする自衛隊の映像を、ニュースなどで見たことがある人は多いはず。
被災者に温かい食事を提供する裏で、自衛官たちは冷たい缶飯を食べている。

けれど空井は、ニュースにするなら苦労話よりも、被災者に温かい食事を届けられたことの方を取り上げてほしいと語る。

ヒーローとして描くのではなく、公平な目線で、自衛隊の活動を知ってほしい。

自衛隊ものを数多く書いてきた有川浩だから描ける、等身大の人間としての自衛官たちの物語。

憧れのブルーインパルスの部隊へ配属が決まった直後に交通事故にあい、パイロットを続けられなくなった空井。

ジャーナリストを夢見て入社し、報道の第一線で経験を積んでいたのに、記者を外され番組ディレクターになった稲葉。

一度は夢の入口に手が届いたのに今はそこから離れた場所にいる、そんなふたりが出会うところから物語は始まる。

「戦闘機って人殺しのための機械でしょう?」
などと自衛隊への偏見を隠しもしない稲葉と、空井はしょっぱなから衝突する。

でもその原因は、広報の力が足りていないから。
一般に広く自衛隊という組織を理解してもらえていないからだと室長に諭される。

自衛隊という特殊な職業だけど、そこで働いているのは普通の人々であること。
それが、広報室の自衛官たちを軸に丁寧に描かれていく。

有川作品らしい個性的なキャラクターばかりで、おなじみのラブコメフレーバーもある。

だからといって、ただ面白おかしく描いたわけではない。
自衛隊に対する世間の厳しい目や、その成り立ちゆえの不自由さにも、真正面から切り込んでいる。

自分の好きなものを多くの人に知ってほしいという著者のオタク的な熱量に加え、そこで働く自衛官たちへのリスペクトが詰まった作品。